十時半ようどに、田中さんが来ました。「ああ、陳さん、早く来ていたの。」「ええ、日本の映画館は初めてだから、ちょっと見物しようと思って。でも、ずいぶん込んでるのね。」「ええ、これは、席を取るのが大変そうだなあ。」「切符はあるんでしょう。」「ええ、でも、これは、指定席の切符じゃないから。」「指定席じゃない切符があるの。私の国と違うのね。」「ああ、そう。とにかく、中に入ろう。じゃ、陳さんは、右のドアから入って、席を取って。僕は、左のドアから入って取るから。それで、どちらか取れたほうに座ろう。」こういうわけで、私たちは、映画館の席に座るまで、運動会に出たときのように走り回りました。ですから、映画の筋より、映画館の中で飲んだ冷たいジュースのほうをよく覚えています。